コラム
事業環境に応じた特許権の目的
この記事は、足立 晋平が監修しました。
詳しくはこちら1.特許権の効力
特許権を持つとどのような効果があるのでしょうか?
特許権の範囲であれば、特許権者が独占的に実施することができますし、権利侵害されれば、
「差止請求」や「損害賠償請求」をすることができます。
つまり、独占的に実施できるし、他社も排除できる(排他)。
特許権は独占排他的な権利です。
逆に他社が特許権を持っている場合は、この範囲で原則的に事業をすることができません。
このような特許権ですが、特許権の存続期間は特許出願の日から原則的に20年です。
特許権を取得すると非常に長い期間、独占的に実施できるということになります。
2.事業環境に応じた特許権の役割
ここからは自社が事業を推進する上で、特許権をどのように考えるのか、アンゾフの成長マトリックスで説明していきたいと思います。
横軸を製品、縦軸を市場とした場合、
・既存の製品を既存の顧客に提供する場合(領域A)
・新規の製品を既存の顧客に提供する場合(領域B)
・既存の製品を新規の顧客に提供する場合(領域C)
・新規の製品を新規の顧客に提供する場合(領域D)
この4つの領域があります。
Aの領域においては、既存の強みが完全に活かせる領域です。とにかくシェアを伸ばしていく戦略となります。
Bの領域においては、新しい製品ですが、製品によっては製造技術や品質保証の強みが転用できる場合もありますし、何よりも既存の顧客なので、特に顧客チャネルや既存のブランド力は有効活用できるでしょう。
また、Cの領域においては、既存の製品なので、製造技術や品質保証の強みが活かせる領域ですが、自社にとっては新しい市場なので、ブランド力がなかったり、顧客に知られていなかったり、営業力により打破しなければならない領域と言えるでしょう。
とはいえ、このB,Cの領域では、競合他社が存在していることも多いので、既存の強みだけで勝てない場合も多くあります。
そして、Dの領域においては、製品も新しく、“自社”にとっては市場も新しいので、自社の既存の強みが極めて活かしにくい分野と言えます。
特に、「自社にとっては新しい市場」であったとしても世の中的には「既存の市場」という場合もあり、すでに競合他社が存在している場合、例えば、顧客チャネルを作るのには、全国に営業所を作り、営業人員を配置し、多くの投資と長年の営業活動が必要になります。あるいは、大規模な設備投資が必要な場合もあるでしょう。
Aの領域も自社の市場を守るという観点ではもちろんですが、特にB,C,Dの領域においては、特許権というのは営業チャネルや大規模な設備投資など、それらの他の強みを構築するのに比べて、強みを作るうえで、比較的、費用対効果の高い施策。と言える場合も多くあると思います。
これらの観点で「特許権を取得する」という手段においては、自社の強みを構築する、参入障壁を構築するためなど、事業環境に応じて検討が必要となります。
この記事の執筆者
WRITER足立 晋平代表取締役社長
大手人材サービス会社にて、新規事業を立ち上げ子会社の執行役員営業部長としてメンバー25 名のマネジメントに携わる。その後、グローバル展開の大手人材開発コンサルティング会社に転職。各種人材開発プロジェクトに携わる。2012年より現職。100社を超える中堅・大手企業の組織活性化や人材育成を支援。